ソマリアの子に光を9/下野新聞(2012年12月24日)
ソマリアの子に光を9 ユニセフ國井医師リポート
命の水:住民参加で衛生改善へ
日本では水道の蛇口をひねると、いつでもどこでもきれいな水が飲める。これはソマリアにいると夢のような話。
この半沙漠地帯には一年中水が流れる川は二つしかない。あとは枯れ川。年2回の雨季に数時間しか水が流れない。
沙漠の中に、透き通った水の湧くオアシスがある。しかし、この限られた水を巡って流血の争いが起こることもある。限られた人口にしか恩恵が行き渡らないのだ。
人口の6割以上が遊牧生活を営むこの国では、 男がヤギやラクダの世話をしている間、水くみは女性や子どもの役割であることが多い。歩いて往復3時間、千ばつ時には数日かかって水を捜す。その途中で乱暴を受ける女性や女児も少なくない。水くみは命がけなのだ。
きれいな水、トイレ、手洗い。この三つを改善するだけで、多くの命が 救える。コレラ、赤痢などの下痢性だけでなく、さまざまな寄生虫、眼や皮膚の病気、さらに肺炎も防ぐことができる。せっけんで手を洗うだけで、肺炎の発生率が半減したとの研究結果もある。予防法としては驚きの効果である。
われわれが実施している支援は、井戸掘り、ため池作り、上水施設整備、浄水剤配布、便所作り、手洗い指導を含めた衛生教育など多岐にわたる。
しかし、これがそう簡単ではない。沙漠地帯にも地下水はあるため、井戸を掘って水を得るのは そう難しくはない。ただ 問題は水の質や量。塩分やカルシウム、フッ素などが多く、飲用に適さない場所も多い。フッ素は虫歯予防によいと思う人もいるだろうが、量が多いと斑状歯、肝障害、動脈硬化など人体に悪影響を与える。
自然に雨水が溜まる場 所があり、それを水源としている遊牧生活者が多い。ヤギやラクダなどの家畜も人間も皆同じ場所を利用するため、水が汚染され病気が広がりやすい。家畜と人間の水場を分け、効率よく雨水を取 水・貯水できるよう整備するのもわれわれの仕事 である。その管理がまたひと苦労なのだが。
便所を使ったことのない人々にその習慣を教えるのは特に難しい。便所を作っても、悪臭のする狭く暗い空間より、アカシアなどの木陰で風に吹かれ、気持ちよく用を足 したほうが気持ちいいのは私も知っている。水がなければ用を足した後の始末も手洗いも、さらに 便所掃除もできず、便所自体が病気の発生源になってしまう。
手洗いも簡単なようにみえるが、それを習慣化させることは容易でない。テレビもラジオも普及していないこの国では、地域でボランティアを育成して地道にその推進をする必要がある。
これらの困難を打破するのに重要なキーワードが住民参加、できれば住民主体。住民自らがその重要性に気づいて、水源を管理し、衛生改善の努力をすることでその効果や持続性が高まる。
困難だが不可能ではない。既に100万人以上に活動は広がった。
(ユニセフソマリア支援センター保健・栄養・水衛生事業部長・國井 修=大田原市出身)