ソマリアの子に光を8/下野新聞(2012年11月26日)

ソマリアの子に光を8 ユニセフ國井医師リポート

海賊対策:若者に生きる力支援

 世界では今でも年間400件以上、平均1日1 件以上の海賊事件が発生している。 以前はマラッカ海峡など東南アジアでその大半が起こっていたが、2007年以降はソマリア沖やアデン湾にその中心が移った。

理由として、ソマリアの貧しい漁民が武装化した、麻薬や武器の密輸に関わるマフィアが海賊と化したなど様々な説がある。いずれにせよ、ソマリアが長年の内戦で無法地帯になっている政治状況、それに伴い沿岸部を含めて貧困がはびこっている社会経済状況、スエズ運河を経てソマリア近くを年間約2万隻の商船が通る立地条件などが誘因になっていると思われる。

 ソマリア周辺の海賊の特徴は、白昼堂々、自動小銃や小型ロケットなどで武装した高速艇が商船を襲い、船ごと、乗組員全員を人質にするもの。11年には襲撃された237隻のうち8隻が乗っ取られ、ピーク時には1200人以上が抑留された。12年10月1日現在、188名の人質がいまだ拘束中である。

人質解放のために支払われた身代金は年間10 0億円以上。商船1隻あたり平均4億円。当初は成功率も高かったため海 賊が増えていったという。

 これに対して国際社会も一丸となり、軍事オペレーション、周辺国の取り締まり能力向上の支援、海賊の訴追・法的枠組みの強化などを開始した。欧米が中心となりEUNAVFORアタランタ作戦、NATOオーシャンシールド作戦などで 巡洋艦、駆逐艦を派遣する中、日本も3年以降、 護衛艦・哨戒機を300 回以上派遣し、2600 隻以上の日本関係および外国の船舶を護衛した。

 海賊対策にはその根源的な問題解決が必要。紛争・内戦の終結、平和の構築、政治の安定、統治・警察の強化、貧困問題の解決などが含まれる。 既に様々な取り組みが行われ、私もそのいくつかに関わっているが、かなりの努力と時間と資金が必要だ。

 取り組みの一つとして ユニセフが実施しているのが、若者の更生と訓練。海賊として実際に商船を襲うのは、金に釣られて集まった若者。それも貧困、路上生活、家庭崩壊など社会経済的に恵まれず、学校には行けず、たは中退して、窃盗や暴 力などの犯罪に手を染め ているものが多い。

そのような若者を集め、食事を与え、読み書きや、算数などに加え、社会生活をおくるために必要な人間関係の構築法などの基本的な技術=ライフスキルを教え、職業 訓練を与えている。 青少年が犯罪や暴力から足を洗い、自らを守り、いかに自立して社会に役立つ人間になるか、そんな「自立する術」「生きる力」を与える支援だ。

 試験的に始めたこの支援の受講生500人のうち約8割が学校に戻りまた入学し、犯罪から足を洗った。 “海賊の街”で活動を拡大・展開している。

 若者が海賊に憧れず、 国創りに燃え努力する社会を作らねば…。

(ユニセフソマリア支援センター保健・栄養・水衛生事業部長・國井 修=大田原市出身)