国際医療協力促進のために/毎日新聞
国際医療協力促進のために
私見/直言
アジア医師連絡協議会ソマリア救援委員長 国井修
日本の民間による国際医療協力も新時代を迎えている。私が医学生であったころ、第三世界の医療に関心を持つ医師、医学生は全国を探してもわずかであった。そのマイノリティーが全国的に集い、組織的な行動を起こす契機となったのが一九七〇年代後半のカンボジア難民問題である。実際に現地を訪れた医学生たちは、過酷な環境下で献身的に救援活動を行う西欧の医師たちの姿を見て無関心な自国の民に怒りを感じた。若さ故、この怒りは自分たちで将来を変えなくてはならないとの使命感に変わり、行動に移ったのである。
まず、日本のみならずアジア各国の医学生を集めて学生組織(AMSA)を作った。国際会議やフィールドワークを企画・運営し、企業回りや街頭募金などで集めたわずかな資金でマニラのスラム街にささやかなヘルスセンターを建てた。しかし、活動すればするほど、知識も技術も資金力もない学生の身分に無力感と自己嫌悪を感じていったのも事実である。
これらの活動は国際医療協力への強いモチベーションをもった若い人材と、友情をベースとしたアジア十数カ国のネットワークを育てることには成功した。これらを基盤としてアジア十二カ国に支部を持つ多国籍の民間国際医療救援団体、アジア医師連絡協議会(AMDA)が設立された。現在、カンボジア、バングラデシュ、ネパール、ソマリアなどで難民キャンプやへき地の保健医療に従事し、日本国内にはAMDA国際医療情報センターを設置して在日外国人の医療問題に取り組んでいる。今年の五月に正式発足した「AMDAアジア多国籍医師団」は、緊急医療救援に当事国を含めたアジア各国から民族、宗教、言語の異なる医療従事者を派遣するものである。
現在、ソマリア難民救援に日本、フィリピン、バングラデシュ、ネパールから医師、看護婦二十人以上が参加しているが、国境を超えて多種多様の医療者が一緒になり同じ人類のために汗を流すという経験を通して言葉を超えた国際理解が得られているようである。
最近、第三世界の医療に関心をもつ若者が増えていることはうれしいことであるが、精神や情熱だけでは人々を救うことはできない。世界で求められているものは、深い知識と技術のある国際医療協力のプロである。日本にはそのような人材を育てその生活を保証できる機関が官民ともにいまだ貧弱である。これは国際協力に対する日本人一人ひとりの一層の理解と協力がなければ実現し得ないと思う。
※本記事の掲載日時は不明です。